心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

β-ヒドロキシ酪酸(BHB)が心筋梗塞後の血管新生を促進する新たな仕組み

 

Li Zらによる最新論文(JACC Basic Transl Sci. 2025;10(5):588–607)の要約です。

 


心筋梗塞(MI)後の心機能回復において、損傷部位への新たな血管形成、すなわち「血管新生(angiogenesis)」は極めて重要です。血流を再建し、残存心筋細胞の生存や心機能回復に寄与するからです。しかし、この血管新生を適切に誘導・促進する治療法はまだ限られています。

今回紹介するLiらの論文では、食事や代謝で生成されるケトン体の一種 β-ヒドロキシ酪酸(BHB) に注目し、BHBがどのように血管新生を促進しうるかを多角的に検討しています。特にBHBが「代謝物」だけでなく「エピジェネティック制御因子」として働く可能性を示唆する非常に興味深い研究です。


1. AMI患者での観察研究:BHBと側副血行の関連

研究の第一段階では、急性心筋梗塞(AMI)患者114名を対象に、冠動脈造影で側副血行(collateral circulation)の程度を評価し、同時に血中BHB濃度を測定しました。結果として、

  • 良好な側副血行(Rentropスコア2~3)を有する患者では、血中BHB濃度が有意に高値

  • 非責任血管領域でも同様の傾向が認められ、全体的にBHB高値群が優れた血管新生能を示唆

この結果は、BHBが自然の血管新生促進因子として働いている可能性を示唆します。


2. マウスモデルでの検証:BHB投与は機能回復を促進

次に、マウスモデルでの検証が行われました。左冠動脈結紮により心筋梗塞を誘導後、BHBをケトンエステル投与で補充したところ、

  • 左室駆出率(LVEF)の改善

  • 線維化の抑制

  • CD31染色・αSMA染色による血管新生の促進

が認められました。BHBは単なる代謝物ではなく、虚血後心筋においても治療的ポテンシャルを持つことが示されました。


3. 血管内皮細胞(EC)レベルでのメカニズム探求

さらに、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いたin vitro実験において、

  • BHBは低酸素下でも内皮細胞の増殖・遊走・管腔形成を促進

  • これは代謝酵素(BDH1やSCOT)を介したケトン代謝ではなく、主にエピジェネティック機構を介している可能性が示されました。

BHBによるヒストンβ-ヒドロキシ酪酸化(Kbhb)の誘導が鍵であり、特にヒストンH3K9bhb修飾の上昇が顕著でした。


4. 多層的オミクス解析で全貌を解明

本研究では、以下の3つの先進的ゲノム解析が統合されました。

  • RNA-seq(転写産物の網羅解析)

  • CUT&Tag(ヒストン修飾部位の網羅解析)

  • ATAC-seq(クロマチン開放性の解析)

これらを統合解析することで、BHBによりヒストンH3K9bhbがプロモーター領域で増加し、クロマチンが開放され、血管新生関連遺伝子の転写が活性化される流れが描き出されました。


5. 中心的役割を担うCPT1A遺伝子

特に注目されたのがCPT1Aという脂肪酸代謝関連酵素です。CPT1Aは以下の二重の役割を担います:

  • 脂肪酸酸化の律速酵素

  • 血管新生遺伝子群の一部としても働く

BHB投与によりCPT1A遺伝子プロモーター領域にH3K9bhb修飾が集積し、転写が促進されました。さらに、siRNAによるCPT1Aノックダウン実験では、BHBの血管新生促進効果が消失し、この経路の中心性が確認されました。


6. 結論と臨床応用の可能性

本研究から導かれる新たなコンセプトは、

BHB → H3K9bhb修飾 → クロマチン開放 → CPT1A活性化 → 血管新生促進

という一連のエピジェネティック制御による血管新生促進メカニズムです。

既存の血管新生薬とは全く異なる作用機序を持つため、虚血性心疾患や心不全に対する新たな治療戦略としてBHB補充療法が有望であることが示唆されました。今後は、より長期的な安全性、至適投与量、治療適応の検討が期待されます。


参考文献

Li Z, Guo Y, Xiong J, et al. β-Hydroxybutyrate Facilitates Homeostasis of Hypoxic Endothelial Cells After Myocardial Infarction via Histone Lysine β-Hydroxybutyrylation of CPT1A. J Am Coll Cardiol Basic Trans Science. 2025;10(5):588–607.

認知症患者の食思不振にリバスチグミンは有効か?薬理と臨床から考察する

最近、特別養護老人ホーム(特養)に往診にいっています。その中で、CT、血液検査などで異常がない食思不振をみるようになりました。認知機能低下で食事が食事と認識できない状態であったり、いわゆる大往生として、静かに最期を迎えようとしている状態ということでいいのだとは思います。

ただ、認知機能が少しでも良くなればという思いで処方したリバスチグミン(貼付剤)で、食事摂取量が明らかに改善し、結構お元気になった方が散見されましたので、偶然なのか、あるいは薬理学的な裏付けがあるのか、実際の研究データとともに考察してみます。


リバスチグミンとは

リバスチグミン(商品名:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)およびブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)を阻害することで、脳内アセチルコリン濃度を高め、アルツハイマー病やレビー小体型認知症の認知機能低下を改善する薬剤です。貼付剤のため経口摂取が困難な高齢者にも適応可能で、副作用としての消化器症状が比較的少ないのも特徴です。

このリバスチグミンには、BuChE阻害によってグレリン(ghrelin)の分解を抑制し、結果としてグレリン濃度を高める可能性が指摘されています。グレリンは視床下部の摂食中枢を刺激して食欲を促進するホルモンで、食前に上昇し、食後に低下するというダイナミックな動きを示します。


臨床研究:FOOD-ARRIVE研究

この仮説に対して、日本国内で行われた研究があります。

  • 研究名:Attitude Towards Food Consumption in Alzheimer’s Disease Patients Revive with Rivastigmine Efficacy(通称:FOOD-ARRIVE研究)

  • 対象:食欲不振・低摂食状態にあるアルツハイマー病患者38名(平均年齢86.2歳、MMSEスコア平均10.1)

  • 介入:リバスチグミンパッチを16週間投与

  • 結果

    • 初週で平均食物摂取量が約55g増加(p < 0.01)

    • 食物摂取率が9.3%増加(p < 0.01)

    • これらの改善は16週間を通じて持続

また、別の研究ではBuChE活性が低下し、血中グレリンのアシル/デスアシル比が有意に上昇したことが確認されており、薬理学的な根拠も支持されています(Furiya Y. et al., Dement Geriatr Cogn Dis Extra, 2018)。


グレリンとは?

グレリンは胃から分泌される摂食促進ホルモンで、以下のような作用を持っています:

  • 視床下部の摂食中枢(NPY/AgRPニューロン)を活性化

  • 成長ホルモン(GH)の分泌促進

  • 消化管運動の促進

  • 筋肉量維持、抗炎症作用

高齢者や認知症患者では、このグレリンの分泌が低下する、または作用が鈍化している可能性があり、グレリンの生理作用を回復させることは食欲改善・筋力維持の観点から極めて重要です。


アナモレリンとの比較

この観点で注目されるのが、**がん悪液質に用いられるグレリン受容体作動薬「アナモレリン」**です。

特徴 アナモレリン リバスチグミン
作用点 GHS-R1a受容体を直接刺激 BuChE阻害→グレリン分解を間接的に抑制
食欲刺激 強い(がん悪液質で承認) 中等度(間接的作用)
筋肉量への影響 あり(IGF-1経由で筋合成促進) 限定的
認知機能改善 データなし 認知症治療薬として承認済

両者ともに「グレリン経路」に介入する薬剤ですが、リバスチグミンはあくまで認知症治療薬の副次的効果としてグレリンを維持しうるのに対し、アナモレリンはグレリンの直接的作動薬です。


臨床的意義と今後の展望

リバスチグミンは認知機能改善だけでなく、摂食改善・体重減少抑制にも効果が期待できる薬剤として再評価されつつあります。特に、

  • アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で、食欲低下や低栄養を呈する患者

  • 経口薬の内服が困難な高齢者施設入所者

には、リバスチグミンの貼付剤が有効な選択肢となり得ます。

現時点で食欲改善を第一適応とする使用ではないものの、薬理学的裏付けと実臨床での効果が見られる以上、今後はリバスチグミンの新たな位置づけが期待されます。

認知症に伴う食思不振は、生活の質(QOL)を大きく損なう症状です。単なる食事ケアだけでなく、病態に根ざした薬理的介入を適切に行うことで、本人と介護者双方の負担を軽減しうる可能性があります。


参考文献

  1. Furiya Y, et al. "Rivastigmine Improves Appetite by Increasing the Plasma Acyl/Des-Acyl Ghrelin Ratio and Cortisol in Alzheimer Disease." Dement Geriatr Cogn Dis Extra. 2018;8(1):77-84.

  2. Hamauchi S, et al. "A multicenter, open-label, single-arm study of anamorelin (ONO-7643) in advanced gastrointestinal cancer patients with cancer cachexia." Cancer. 2019;125(24):4294-4302.

  3. Garcia JM, et al. "Anamorelin for patients with cancer cachexia: an integrated analysis of two phase 2, randomized, placebo-controlled, double-blind trials." Lancet Oncol. 2015;16(1):108-116.

恥ずかしながらレビー小体型認知症を、薬の使い方に注意が必要な認知症くらいに思っていたら、循環器内科医が知っておくべき疾患でした

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並ぶ三大認知症の一つとして知られています。かつて私は、「幻視がある」「抗精神病薬の使用に注意が必要」という程度の認識にとどまっていました。しかし、自律神経障害を前景に持つ亜型の存在や、その血行動態への影響を知るにつれ、DLBはむしろ循環器内科医が深く関与すべき疾患であると痛感するようになりました。


◉ αシヌクレインとは何か?

DLBやパーキンソン病、多系統萎縮症(MSA)に共通して関与する病因タンパク質、それが「αシヌクレイン」です。これはもともと神経終末に存在する正常なタンパク質で、以下のような生理的機能を持ちます:

生理機能 内容
ドーパミン放出の調整 シナプス小胞の融合・遊離を制御
小胞の再利用効率化 神経伝達の維持と回転効率を高める
脂質膜との相互作用 神経終末の構造可塑性に関与

ところが、何らかの要因で**異常に折りたたまれ(ミスフォールディング)**たαシヌクレインは、他の正常なαシヌクレインに異常構造を伝播し、凝集体を形成します。この構造感染的性質を「プリオン様伝播(prion-like propagation)」と呼びます。


◉ レビー小体とその病理学的進展

αシヌクレインの異常凝集体は神経細胞内でレビー小体レビー小糸として可視化されます。レビー小体は初期には脳幹に、やがて辺縁系、大脳皮質、自律神経系にまで進展します。この進展に伴い、症状も変化していきます。

病変部位 主な症状
嗅球・腸管神経叢 嗅覚低下、消化管機能障害
脳幹(青斑核・黒質) パーキンソン症状、REM睡眠行動障害
大脳皮質 認知症症状、幻視、注意力変動
自律神経系 血圧変動、起立性低血圧、膀胱腸管障害

この進行パターンを支持する動物実験も報告されており、異常αシヌクレインを脳内や末梢(腸管や嗅球)に注入すると、神経経路を介して病理が広がることが確認されています。これにより、DLBやパーキンソン病が「感染するように広がる」性質を持つことが理解されつつあります。


◉ 自律神経障害が主となるレビー小体病:PAF

循環器内科医として特に注意すべきは、「認知症や振戦はないのに血圧変動が著しい」症例です。これはDLBの亜型、**純粋自律神経型レビー小体病(Pure Autonomic Failure:PAF)**の可能性があります。

症状 内容
起立性低血圧 立位で急激に血圧が下がる(20mmHg以上)
夜間高血圧 睡眠中にも交感神経優位が続く
発汗異常 全身または局所の無汗・過剰発汗
便秘・排尿障害 自律神経による腸管・膀胱制御の障害
血圧日内変動の崩壊 起床時に失神、夜間に頭痛なども

DLBやパーキンソン病へと**数年以内に進行(phenoconversion)**することもあるため、見逃さず早期介入する意義は大きいです。


◉ 診断に役立つ検査

検査名 内容
Tilt試験 起立性低血圧を確認
MIBG心筋シンチグラフィ 心臓交感神経の脱神経を可視化(取り込み低下)
頭部MRI 脳萎縮のパターン(後頭葉など)
DaTスキャン ドパミン取り込みの低下(パーキンソニズム評価)
皮膚生検(研究段階) 末梢神経のαシヌクレイン沈着を確認

◉ 治療:対症療法が中心

DLBもPAFも根治療法は現時点では存在せず、症状のコントロールによるQOL向上が治療の主軸です。循環器内科医が関与するべき重要な症状は以下のとおりです。

● 起立性低血圧

治療 内容
非薬物療法 水・塩分摂取、弾性ストッキング、頭部挙上
ミドドリン 末梢血管収縮による血圧上昇(効果速やか)
ドロキシドパ ノルアドレナリン前駆体として作用
フルドロコルチゾン ナトリウム貯留による体液量増加(低K注意)

● 夜間高血圧

  • 就寝前の短時間作用型降圧薬(Ca拮抗薬など)

  • ベッド頭側を15〜30度上げることで夜間交感神経緊張を緩和

● 消化・泌尿器症状

  • 便秘:酸化マグネシウム、ルビプロストンなど

  • 排尿障害:ミラベグロンや自己導尿の検討


◉ 認識の転換:循環器内科医にとってのDLB

DLBやPAFは、単なる「神経の病気」ではなく、神経と循環動態が深く結びついた病態です。慢性的に不整脈、血圧変動、夜間高血圧を訴える高齢者の中に、神経変性疾患が隠れている可能性があります。

私自身、「レビー小体型認知症=精神症状に注意」という認識で臨んでいたことで、病態の本質を見逃していた経験があります。しかし、レビー小体が自律神経系に沈着することで、血圧や心拍、消化・排尿といった循環器が守備範囲とする臓器系に多大な影響を与える以上、この疾患は循環器の病気でもあると考えるべきです。


DLBをより深く理解することは、患者の全人的ケアだけでなく、診断精度の向上や多職種連携の強化にもつながります。今後もαシヌクレイン伝播阻害や免疫療法などの研究が進めば、循環器領域での役割もさらに大きくなるでしょう。

「見えない神経の病気が、見えている循環器症状の原因かもしれない」——そういう視点を持って日々の診療に臨むことが、今の時代の内科医に求められているのだと感じています。

 

今回この記事を書くきっかけとなった書籍です。

レビー小体型認知症と診断された患者である樋口さんが、専門医との対談形式という形で話が進められています。

著者の樋口さんが文才豊かな方であることもあり、非常に読みやすく、一般の方でも読めると思います。

特に私のような非専門医必読の書といってもよいと思います。


 

 

 

【悪玉コレステロールの新常識──“数”で見る動脈硬化リスク】

【悪玉コレステロールの新常識──“数”で見る動脈硬化リスク】

これまで動脈硬化のリスク評価といえば、LDLコレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)の濃度に注目するのが一般的でした。健診でも「LDL-Cが高いですね」と指摘され、スタチン治療が始まるケースは多くあります。

しかし近年、世界的な研究の進展により、「濃度」ではなく「数」、すなわち“悪玉の粒子数”を評価することが、より正確なリスク評価につながるという考え方が主流になりつつあります。その鍵となるのが、**アポリポプロテインB(apoB)リポ蛋白(a)[Lp(a)]**です。

apoBは「悪玉粒子の数」そのもの

LDL、IDL、VLDL、そしてLp(a)といった動脈硬化性のリポ蛋白粒子は、すべて1粒子に1分子のapoB-100を持っています。つまり、**apoBの濃度=悪玉粒子の総数(apoB-P)**に相当します。これは従来のLDL-C(コレステロール量)では捉えきれない「数のリスク」を反映する指標として注目されています。

実際、LDL-Cが正常でも、小粒子のLDLが多数存在すればapoBは高くなり、動脈硬化リスクも高くなります。逆に、LDL-Cがやや高くても、粒子が大きく数が少なければ、apoBは低く、リスクも相対的に低くなります。

Lp(a)は「極悪玉」──独立したリスク因子

Lp(a)は、LDLに似た構造を持ちながら、apo(a)という特殊なたんぱく質が結合しており、より動脈硬化性が強いとされています。これは、

  • 酸化リン脂質を多く含み、炎症性が高い

  • プラスミノーゲンと構造が似ており、血栓を溶かす働きを阻害

  • 動脈壁に強く結合しやすい

といった特徴によるものです。さらに、Lp(a)値は遺伝的に決まっており、食事や運動ではほとんど改善されません。

研究では、Lp(a)はapoBとは独立して冠動脈疾患(CAD)のリスクを高め、apoBで調整してもそのリスク上昇は持続することが確認されています。つまり、Lp(a)はapoBに含まれていても、別軸でリスクを持つ「極悪玉」として認識すべき存在なのです。

(参考:Morze J, Melloni GEM, Wittenbecher C, et al. ApoB-containing lipoproteins: count, type, size, and risk of coronary artery disease. Eur Heart J. 2025 Apr 28; https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf207)

VLDLは見逃された“凶悪因子”か

従来、VLDLはTG(中性脂肪)リッチな粒子として、脂質異常症の一要素として扱われる程度でしたが、最新の研究では、

  • VLDLはLDLよりも1粒子あたりのアテローム形成性が2〜4倍高い

  • apoBの中で数は少ない(全体の約9%)が、強い炎症性を持つ

  • リモデリングにより残渣粒子(remnants)となり、マクロファージに取り込まれやすい

という“凶悪性”が明らかになってきました。VLDLコレステロールが高いということは、TGリッチなアテローム形成性の高い粒子が多く存在する=apoB-Pの中でもリスクが高いサブセットが多い、という解釈が成り立ちます。

今後の脂質管理は「数」を見よ

欧米のガイドラインでは、すでにapoBやLp(a)をルーチン測定に加える流れが始まっています。特にスタチン治療中でもリスクが残る「残余リスク」の層別化には、これらの指標が非常に有用とされています。

日本でも、TG高値、LDL-Cとnon-HDL-Cの乖離があるケース、家族歴が強いケース、若年性CADなどでは、apoBやLp(a)の測定が今後さらに重要になってくるでしょう。

まとめ:新しいリスクの見方

  • LDL-Cやnon-HDL-Cは「荷物の量」

  • apoBは「悪玉の粒子の数」

  • Lp(a)は「数の中でも特別に危険な粒子」

今後の脂質管理では、「悪玉コレステロールの濃度」ではなく、「悪玉粒子の数」と「極悪玉の存在」を見極める視点が、動脈硬化性疾患の予防・管理の鍵になるでしょう。

新たな交感神経モジュレーションの可能性:Subclavian Ansae Stimulation(SAS)が心房細動に与える影響

 

心房細動(AF)の発症・持続には自律神経、特に交感神経系の関与が大きいことが知られています。これまでにも星状神経節ブロックや腎デナベーション、迷走神経刺激といった介入が試みられてきましたが、いずれも侵襲性や非選択性が課題となっていました。

そんな中、**JACC: Clinical Electrophysiology誌(2025年3月号)**に、**Subclavian Ansae Stimulation(SAS)**という新たなアプローチをヒトで初めて試みた研究が報告されました(Kanthasamy V, et al. J Am Coll Cardiol EP. 2025;11(3):563–578)。


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Subclavian ansaeとは?

Subclavian ansae(SA)は、交感神経の一部で、鎖骨下動脈を取り巻くように走行する神経ループです。T1-T2レベルの脊髄から出た交感神経線維は、星状神経節だけでなく、このSAを介して心臓へと投射されます。過去の動物実験では、この領域の刺激により心臓への交感神経トーンが上昇することが示されていましたが、ヒトでの検討はありませんでした。


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研究の概要

この研究では、発作性AFに対する初回カテーテルアブレーション予定の患者17名を対象に、アブレーションカテーテルを用いて左および/または右鎖骨下動脈内からSAを刺激し、その影響を評価しました。

刺激条件:最大70V、10Hz、パルス幅2ms、15–30秒間

陽性反応:心拍数または収縮期血圧が10%以上上昇

観察項目:心拍数、血圧、P波分散、房間伝導時間、心房性不整脈の誘発など

 

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主な結果

17人中11人(65%)が陽性反応を示しました。

刺激によって心拍数上昇(RR間隔の短縮)と血圧上昇が確認されました。

例えば、左側刺激ではSBPが81→128 mmHg(P=0.005)


P波分散(P-wave dispersion)の増大、房間伝導時間(IACT)の短縮も認められました。

5人で心房細動や心房性期外収縮が誘発されました。

低出力(8–12V)では効果が乏しく、50–70Vで効果が発現。

 

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意義と展望

この研究は、ヒトにおいて非侵襲的・選択的に交感神経刺激が可能であることを初めて示したものです。従来の星状神経節刺激とは異なり、血管内(経動脈的)からアクセス可能な部位であるSAをターゲットとすることで、より安全かつ局所的な神経調節が可能となります。

特に注目すべきは、P波分散の増大や心房性不整脈の誘発といった、AF病態のモデルとしての利用可能性です。将来的には、**この部位のデナベーション(交感神経遮断)**によるAF予防や治療への応用が期待されます。


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限界と今後の課題

本研究は症例数が限られており、長期的な有効性や安全性の評価、持続性AFや心室性不整脈への応用可能性など、さらなる検討が必要です。また、刺激による電気的アーチファクトのため、刺激中のECG評価が困難という技術的課題も残されています。


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まとめ

本研究は、交感神経を標的とした新しい神経調節治療の可能性を開くものであり、今後のAF治療戦略に新たな選択肢をもたらすかもしれません。非侵襲的かつ選択的に心臓交感神経を操作するという概念は、今後の臨床応用において非常に注目されるテーマです。


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引用文献:
Kanthasamy V, Ang R, Sridhar A, et al. Subclavian Ansae Stimulation on Cardiac Hemodynamics and Electrophysiology in Atrial Fibrillation: A Target for Sympathetic Neuromodulation. J Am Coll Cardiol EP. 2025 Mar;11(3):563–578. https://doi.org/10.1016/j.jacep.2024.12.011

circRNAとHuR/C-FOS軸の相互作用について

Wang S-F, Yang L-Y, Zhao A-Q, et al. A Novel Hidden Protein p-414aa Encoded by circSETD2(14,15) Inhibits Vascular Remodeling. Circulation. 2024. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.070243

 


血管平滑筋細胞(VSMCs)の表現型スイッチとは?

VSMCsは、正常時は「収縮型」として働き、血管の緊張と血圧を維持しています。しかし、炎症や損傷などの刺激によって「合成型」へと表現型が変化し、細胞の増殖や移動、細胞外マトリックスの産生が活発になります。
これがいわゆる表現型スイッチであり、**ネオインティマ形成(内膜肥厚)**を引き起こし、血管リモデリングの基盤となります。

このスイッチは、動脈硬化、血管再狭窄、バイパス移植後の血管閉塞といった疾患の中心的な病態機構です。


circSETD2(14,15)と新規タンパク質p-414aaの発見

今回の研究で注目されたのは、**circSETD2(14,15)**というcircRNAです。
ヒト動脈硬化病変およびPDGF-BB(Platelet-Derived Growth Factor-BB)によって刺激されたVSMCsで、このcircRNAの発現が著しく低下していることが、マイクロアレイ解析から明らかになっていました。

PDGF-BBとは?

血小板由来成長因子BBは、VSMCsの増殖と遊走を促進する成長因子で、血管損傷や炎症の際に重要な役割を果たします。しかし、過剰な活性化は病的な血管リモデリングを引き起こします。

circSETD2(14,15)の特徴

研究チームは、circSETD2(14,15)がp-414aaという414アミノ酸からなる新規タンパク質をコードしていることを発見しました。
このタンパク質は、circRNAの内部リボソーム進入部位(IRES)依存的に翻訳されることが確認されています。


HuR(ELAVL1)とC-FOS mRNAの関係

HuRとは?

HuR(ELAVL1)は、RNA結合タンパク質(RNA-Binding Protein:RBP)の1つで、mRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)に存在する**AUリッチエレメント(ARE)**に結合します。これによりmRNAの分解を抑制し、翻訳効率を高め、ターゲット遺伝子のタンパク質発現を促進する機能があります。

C-FOSとは?

C-FOSは、AP-1(Activator Protein-1)転写因子複合体の構成要素であり、即時早期遺伝子(Immediate Early Gene)として、細胞外からの刺激に迅速に応答します。細胞の増殖、分化、アポトーシス、さらには血管リモデリングの進行に関与する重要な転写因子です。

HuRとC-FOSの関係

HuRはC-FOS mRNAに結合し、その安定性を高めることで、C-FOSタンパク質の発現を増加させます。これがVSMCsの合成型スイッチを促進し、ネオインティマ形成や血管リモデリングに寄与するのです。


p-414aaの作用メカニズム

p-414aaは、HuRの**ヒンジ領域(Hinge Region:HR)**に直接結合します。
HRは、HuRの核-細胞質間シャトリングやmRNAへの高親和性結合に関与する領域で、RNA安定化作用の中枢を担っています。
p-414aaはこのHRへの結合によって、HuRがC-FOS mRNAと相互作用するのを妨げ、結果的にC-FOS mRNAの分解が促進されます。

これにより、C-FOSタンパク質の発現が低下し、VSMCsの増殖と移動が抑制され、ネオインティマ形成の進行が阻止されます。


マウスモデルでの検証とその意義

マウスの頸動脈結紮モデルを用い、p-414aaのアデノウイルスベクターを局所投与したところ、ネオインティマ形成が有意に抑制されました。
この結果、C-FOSやPCNA(Proliferating Cell Nuclear Antigen)など、細胞増殖を示す指標が低下し、血管内膜肥厚が抑制されることが確認されました。

用語解説

  • PCNA
    細胞増殖の指標として広く利用されるタンパク質で、DNA複製に関与します。

  • アデノウイルスベクター
    遺伝子導入効率が高く、非増殖性で宿主ゲノムへの組み込みがないため、局所的・一時的な遺伝子発現実験に適しています。


circSETD2(14,15)/p-414aa/HuR/C-FOS軸の意義と今後の展望

このcircSETD2(14,15)/p-414aa/HuR/C-FOS軸は、血管リモデリングの進行を制御する新たな経路として注目されています。
これまでHuRとC-FOSの相互作用はがん領域で知られていましたが、今回初めて血管リモデリング領域での重要性が証明されました。

さらに、HuRはcircSETD2(14,15)前駆体mRNAのスプライシングおよびcircRNA形成に関与し、circSETD2(14,15)の安定性をも促進していることが示唆されています。
この正のフィードバックループは、細胞内でのバランス調整機構の一環として働いている可能性があります。

 

 

補足:RNAの基本分類とcircRNAとは

まずRNAについて簡単に整理しましょう。

     

【RNA一覧】

種類 主な役割 場所
mRNA 遺伝情報の伝達(タンパク質設計図) 核 → 細胞質
tRNA アミノ酸運搬 細胞質
rRNA リボソームの構成・触媒 核小体 → 細胞質
snRNA pre-mRNAスプライシング
snoRNA rRNA修飾 核小体
miRNA 遺伝子発現抑制 細胞質
siRNA 遺伝子サイレンシング 細胞質
lncRNA 転写調節・エピジェネティクス 核/細胞質
piRNA トランスポゾン抑制 生殖細胞核
circRNA miRNAスポンジ、転写調節、タンパク質結合、場合によっては翻訳 主に細胞質

 

 ノンコーディングRNA(ncRNA)

通常、タンパク質には翻訳されず、遺伝子発現の調節や細胞内のさまざまなプロセスに関与します。ただし、近年では一部のncRNAが例外的にタンパク質をコードすることが報告され、注目を集めています。

さらに、ncRNAには以下の種類があります。

種類 主な機能
miRNA(マイクロRNA) mRNAの翻訳抑制や分解を促進し、ターゲット遺伝子の発現を抑制する。
lncRNA(長鎖ノンコーディングRNA) 転写やエピジェネティクス制御、クロマチン構造の調節など多様な機能を持つ。
circRNA(サーキュラーRNA) 環状構造を持つためエキソヌクレアーゼによる分解に耐性があり、安定性が高い。miRNAのスポンジ、タンパク質との相互作用、さらにはタンパク質のコードも可能であることが近年報告されている。

特にcircRNAは、従来は「ノンコーディング」と考えられていましたが、近年は内部リボソーム進入部位(IRES)やm6A修飾によって翻訳され、機能性ペプチドやタンパク質を産生することが明らかになってきました。

 

circular RNA(サーキュラーRNA / circRNA)

基本情報

  • 名前の通り、環状の構造を持つRNAで、5'キャップや3'ポリAテールがないのが特徴。

  • 線状RNAとは異なり、RNA分解酵素(エキソヌクレアーゼ)に対して安定性が非常に高い

  • 多くは**lncRNA(長鎖ノンコーディングRNA)**の一部ですが、場合によってはタンパク質をコードするものもあるとされています。

主な役割・機能

  1. miRNAスポンジ

    • circRNAは、特定のmiRNAと結合し、miRNAの働きを阻害することで、miRNAが標的mRNAに作用するのを防ぎます。

    • これにより、間接的に遺伝子発現を調節します。

    • 例:「ciRS-7(CDR1as)」はmiR-7をスポンジとして吸着し、miR-7の機能を制御。

  2. 転写やスプライシング調節

    • 親遺伝子の転写を促進または抑制する役割を果たすことがあります。

  3. タンパク質との相互作用

    • 一部のcircRNAは**RNA結合タンパク質(RBP)**と結合し、その機能を調整します。

  4. タンパク質をコードする可能性

    • 一部のcircRNAは、内部リボソーム進入部位(IRES)やm6A修飾により、翻訳されてペプチドを作ることもあります。

発現と病態との関連

  • がん、心血管疾患、神経変性疾患など、多くの疾患において発現異常が報告されています。

  • 特にがんでは、腫瘍抑制または促進因子として作用することが示唆されています。

 

 

 

✅ 治療効果に時間依存性がある場合の解析モデルは何が適当か? ― 比例Coxモデルと時間依存Coxモデル、ランドマーク解析を使い分ける ―

 

✅ はじめに

臨床試験や観察研究では、「時間とともにイベントが発生するリスク」を評価することが多くあります。
その際に欠かせないのが「カプランマイヤー曲線」と「コックス比例ハザードモデル(Cox proportional-hazards model)」ですが、
これらの手法は時間に関する前提条件
が存在します。

もし、**治療効果が時間によって変わる(時間依存性がある)**場合、
その前提が破綻し、結果の解釈を誤るリスクが高まります。

そこで今回は、

  • 「比例Coxモデル vs 時間依存Coxモデル」
  • 「ランドマーク解析 vs 時間依存Coxモデル」
    という2つの視点から、
    **「どの手法をいつ使うべきか?」**を整理していきます。

✅ 【前半】比例Coxモデル vs 時間依存Coxモデル

1. 比例Coxモデルとは?

コックス比例ハザードモデルは、最も広く使われている「時間-to-イベント解析」の方法です。
基本形は以下の数式で表されます。

h(t)=h0(t)exp(βX)h(t) = h_0(t) \cdot \exp(\beta X)

  • $h(t)$:時点$t$でのハザード(イベント発生率)
  • $h_0(t)$:ベースラインのハザード
  • $X$:治療群やリスク因子などの説明変数
  • 仮定:ハザード比($\beta$)は時間に関係なく一定

このモデルは、
「治療群と対照群のリスクの比率は、時間が経っても常に一定である」
という**比例ハザード仮定(Proportional Hazards Assumption)**に基づいています。


2. 比例ハザード仮定が破綻すると…?

  • 実際の臨床では、時間とともに治療効果が変化することがよくあります。
    • 例)最初の6か月は効果が乏しいが、6か月以降は効果が顕著
  • この場合、
    「時間によらず一定の効果」という仮定が成り立たず、
    平均的なハザード比だけでは本来の治療効果を正しく表現できません

3. 時間依存Coxモデルとは?

▶ 仮定をゆるめた柔軟なモデル

時間依存Coxモデルでは、ハザード比(β)を時間によって変動させることができます。

h(t)=h0(t)exp(β(t)X(t))h(t) = h_0(t) \cdot \exp(\beta(t) X(t))

  • 時間による治療効果の変化
  • フォローアップ期間中に変動する共変量
    を扱うことが可能です。

4. 時間依存Coxモデルの活用例

  • 免疫チェックポイント阻害薬のように、治療効果が遅れて現れる場合
  • 慢性疾患治療における累積効果治療効果の減衰
  • 治療群と対照群のハザードがクロスする現象が観察された場合

5. まとめ【前半】

  比例Coxモデル 時間依存Coxモデル
仮定 ハザード比は時間に関係なく一定 ハザード比は時間によって変動可能
適用ケース 効果が一定している場合 効果が時間とともに変わる場合
難易度 比較的シンプル 柔軟だがモデル設計と仮定の検証が必要
臨床的解釈 わかりやすい 複雑だが詳細な効果を示せる

✅ 【後半】ランドマーク解析 vs 時間依存Coxモデル

1. ランドマーク解析とは?

▶ 方法のイメージ

  • 任意の「ランドマーク時点」(例:9か月)を設定
  • その時点で「生存かつイベント未発生の患者」を対象に、以降のリスクを解析する
  • 例)「9か月時点で改善が見られた患者」と「改善しなかった患者」のその後のリスク比較

2. ランドマーク解析の特徴

  • シンプルで直感的な解釈が可能
  • ランドマーク時点以降に焦点を当てることで、時間ごとの効果を明示しやすい
  • ただし、ランドマーク以前の情報を無視するため、
    • サンプルサイズが減る
    • 選択バイアス(その時点で生き残っている患者のみを対象にするため)のリスクがある

3. 時間依存Coxモデルとの比較

  ランドマーク解析 時間依存Coxモデル
時間の扱い 任意の時点で区切って解析 時間を連続的にモデリング
データ利用 ランドマーク時点までに除外が発生 すべての時間データを活用
実装難易度 簡単で理解しやすい やや複雑、仮定の検証が必要
解釈のしやすさ シンプルで直感的 詳細な時間依存性の解釈が可能
バイアス サンプルの選択バイアスに注意 比例ハザード仮定違反の検証が必須

4. 使い分けのポイント

こんなときは? おすすめ手法
時間依存性があるが、説明はシンプルにしたい ランドマーク解析
「いつから効果が出るか」を直感的に示したい ランドマーク解析
効果が複数の時間区間で異なる(細かく見たい) 時間依存Coxモデル
全フォローアップ期間の情報を無駄なく使いたい 時間依存Coxモデル
複雑な時間変化をモデル化したい 時間依存Coxモデル

5. 臨床試験での実例

▶ ランドマーク解析の使用例

  • 心不全の改善群と非改善群での予後比較
    • 3か月時点での心機能改善(例:LVEF改善)の有無を基に予後を評価
  • SGLT2阻害薬の腎機能保護効果
    • 治療開始6か月後のeGFR変化を基に、その後の腎イベントリスクを解析

▶ 時間依存Coxモデルの使用例

  • 免疫療法の遅延効果解析
    • 免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療で、治療効果が数か月後に発現する場合
  • 長期フォローアップでの治療効果の変化
    • 心不全治療で、時間とともに効果が増減する場合(累積効果や治療耐性)

✅ まとめ

▶ 比例Coxモデルはシンプルで汎用性が高いが、時間による効果の変動には注意

▶ 時間依存Coxモデルは、時間に応じた治療効果を詳細にモデリングできる

▶ ランドマーク解析は、「ある時点以降の効果」を簡潔に示すのに便利

▶ 「どちらを選ぶか?」は、研究目的やデータ構造、説明のしやすさによって決まる

DAPA-HFとEMPEROR-Reducedの比較から考える心疾患におけるSGLT2阻害薬 (追加補足記事:コックス比例ハザードモデルは万能ではない?

近年、心不全治療に革命をもたらしたといわれるSGLT2阻害薬。非糖尿病患者も組み入れられた「DAPA-HF」と「EMPEROR-Reduced」は、いくつかある代表的な臨床試験の中の2つと言えます。この二つの大規模臨床試験は、糖尿病の有無を問わず駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者におけるSGLT2阻害薬の有効性を証明し、心不全治療に新たなスタンダードを打ち立てました。この2つの臨床試験は比較的に通った点が多いことから比較してみたいと思います。

DAPA-HF試験とは

**DAPA-HF(Dapagliflozin And Prevention of Adverse-outcomes in Heart Failure)**は、ダパグリフロジン(フォシーガ)を対象とした無作為化比較試験で、2019年にNEJMで発表されました。この試験は、糖尿病がある・ないにかかわらず、HFrEF患者におけるダパグリフロジンの有効性を検証した最初の大規模試験です。

主な特徴と結果

  • 対象:NYHAクラスII~IV、左室駆出率(LVEF)40%以下の心不全患者

  • 登録患者数:4744人

  • ARNI使用率:10.7%

  • 平均NT-proBNP値:1457pg/mL(比較的軽症の患者が多い)

  • 追跡期間中央値:18.2ヶ月

  • 主要評価項目:心血管死または心不全の悪化(入院または静脈薬治療が必要な緊急受診)

  • 結果:ダパグリフロジン群は主要評価項目を26%減少(ハザード比 0.74; 95%CI 0.65-0.85; P<0.001)

  • 心血管死:ダパグリフロジン群9.6%、プラセボ群11.5%(HR 0.82; 95%CI 0.69-0.98)

DAPA-HFは、標準的なHFrEF治療(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA)にSGLT2阻害薬を追加することで、心血管死および心不全悪化を有意に減少させることを示しました。

EMPEROR-Reduced試験とは

**EMPEROR-Reduced(Empagliflozin Outcome Trial in Patients with Chronic Heart Failure and a Reduced Ejection Fraction)**は、エンパグリフロジン(ジャディアンス)を対象とした無作為化比較試験で、2020年にNEJMで発表されました。こちらも糖尿病の有無を問わずHFrEF患者に対する有効性を検証した試験です。

主な特徴と結果

  • 対象:NYHAクラスII~IV、LVEF40%以下の心不全患者

  • 登録患者数:3730人

  • ARNI使用率:19.5%

  • 平均NT-proBNP値:1907pg/mL(より重症な患者が多い)

  • 追跡期間中央値:16ヶ月

  • 主要評価項目:心血管死または心不全悪化(入院)

  • 結果:エンパグリフロジン群は主要評価項目を25%減少(ハザード比 0.75; 95%CI 0.65-0.86; P<0.001)

  • 心血管死:エンパグリフロジン群での心血管死低下は統計的有意ではなかった(HR 0.92; 95%CI 0.75-1.12)

  • 腎保護効果が明確で、eGFR低下速度を大幅に抑制

EMPEROR-Reducedでは、より重症の患者においてもSGLT2阻害薬の有効性が示され、特に心不全悪化および腎機能悪化に対する予防効果が強調されました。

DAPA-HFとEMPEROR-Reducedの比較

項目 DAPA-HF EMPEROR-Reduced
対象患者数 4744人 3730人
EF基準 40%以下 40%以下
NYHAクラス II~IV II~IV
NYHA II (%) 67% 75%
NYHA III or IV (%) 33% 25%
ARNI使用率 10.7% 19.5%
NT-proBNP中央値 1457pg/mL 1907pg/mL
主要評価項目(治療群) 16.3%(HR 0.74, P<0.001) 19.4%(HR 0.75, P<0.001)
主要評価項目(プラセボ群) 21.2% 24.7%
心不全入院率(治療群) 10.0%(HR 0.70, P<0.001) 13.2%(HR 0.69, P<0.001)
心不全入院率(プラセボ群) 13.7% 18.3%
心血管死発生率(治療群) 9.6%(HR 0.82, P=0.02) 10.0%(HR 0.92, P=0.32)
心血管死発生率(プラセボ群) 11.5% 10.8%
腎保護効果 評価されたが主要でない 明確に腎機能低下抑制
追跡期間中央値 18.2ヶ月 16ヶ月

両試験ともSGLT2阻害薬がHFrEFに有効であることを示しています。

 

プラセボ群と治療群の死亡率比較の示唆

興味深い点として、DAPA-HFでは心血管死率(プラセボ群11.5%、治療群9.6%)と心不全入院率(プラセボ群13.7%、治療群10.0%)が比較的近い割合となっています。通常、心不全入院は心血管死よりも高頻度に発生するイベントであることが多いため、この結果にはやや違和感を覚える部分があります。

この観点から、DAPA-HFのイベント発生パターンについては、さらなる詳細な検討や背景因子の分析が必要と考えられます。両試験間の間接比較においては、SGLT2阻害薬の「クラス効果」だけでなく、試験デザインや患者背景、イベントの定義とその捕捉方法についても慎重な評価が求められています。

 

他に一点気になるのが、DAPA-HFで心血管死亡が9-12カ月の間でジャンプアップするかのように発生率が上がっているという点です。

このジャンプアップがなければ、最終的に有意差が出なかった可能性があり、また、こういったイベントは通常ある程度何らかの自然な曲線に回帰できるような経緯をたどることの方が多いので、若干の違和感は覚えます。

McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE, et al. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008. doi:10.1056/NEJMoa1911303

 

ARNI使用率の違いと意義

DAPA-HFでは10.7%、EMPEROR-Reducedでは19.5%がARNI(サクビトリル/バルサルタン)を使用しており、これは試験実施時期の違いによるものと考えられます。ARNIはPARADIGM-HF試験で心血管死と心不全入院を減少させることが示されており、心不全治療における重要な薬剤です。

さらに、DAPA-HFおよびEMPEROR-Reducedのサブ解析では、ARNIの有無にかかわらずSGLT2阻害薬の有効性が一貫して認められています。これにより、ARNIとの併用は理論的にも臨床的にも合理的であり、SGLT2阻害薬はARNIに上乗せして使用すべき薬剤と位置付けられています。

そのため、ARNIとSGLT2阻害薬の併用は「心不全治療の新たなスタンダード」として確立しつつあり、4剤併用療法(ARNI+β遮断薬+MRA+SGLT2i)は現在のHFrEF治療のゴールドスタンダードとして推奨されます。

実臨床への示唆

DAPA-HF、EMPEROR-Reducedともに、SGLT2阻害薬はHFrEF患者の死亡率や心不全悪化を減少させる強力なエビデンスを提供しました。特に、糖尿病の有無を問わない効果が明らかになったことで、心不全治療の第一選択薬群にSGLT2阻害薬が加わったことは間違いありません。

 

 

追加補足:

コックス比例ハザードモデルは万能ではない?

― 時間依存性を考慮した統計解析の重要性 ―

✅ はじめに

臨床試験における「時間-to-イベント解析」では、カプランマイヤー曲線と**コックス比例ハザードモデル(Cox proportional-hazards model)**が頻繁に使われています。
これらの解析は、イベントの発生率を比較し、治療効果を評価するための重要な手法ですが、前提条件を理解していないと誤った結論につながる可能性があります。

今回は、治療効果が時間とともに変化する場合に、コックスモデルの結果が不十分になることと、その対策について解説します。


✅ コックス比例ハザードモデルとは?

コックス比例ハザードモデルは、
「ある時点でイベントが発生するリスク(ハザード)」を、治療群と対照群で比較する手法です。
結果として、**ハザード比(Hazard Ratio:HR)**を算出し、治療効果を定量的に示します。

しかし、このモデルには重要な前提があります。


✅ 前提条件:「比例ハザード仮定(Proportional Hazards Assumption)」

コックスモデルは、
「時間が経過しても治療と対照のハザード比は一定」
という仮定に基づいています。

つまり、

  • 治療開始直後でも
  • 試験終了間際でも
    常に同じ効果(リスクの低下や上昇)が続く
    という前提です。

✅ こんな場合は注意!

例えば、次のようなケースがあったとします。

  • 治療開始から9か月目までは効果がほとんど見られない
  • 9か月以降に明らかに効果が現れ、イベントリスクが低下する

この場合、
コックスモデルは「全体の平均的な効果」を示すだけで、
「いつ効果が現れるのか」という重要な情報が埋もれてしまう可能性があります。

さらに、時間によって効果が変動する場合、
比例ハザード仮定が成立していない可能性が高く、
統計解析の前提が崩れてしまいます。


✅ どう対処すればいいのか?

もし、治療効果が時間によって変わる可能性があるなら、次のようなアプローチが必要です。


比例ハザード性の検定

  • **Schoenfeld残差(Schoenfeld residuals)**を使い、
     ハザード比が時間によって変動していないかをチェックします。
  • 仮定が崩れている場合、通常のコックスモデルは適用不適となります。

時間依存コックスモデル(Time-dependent Cox Model)

  • 治療効果が「いつ変わるか」を変数としてモデルに組み込みます。
  • たとえば、「9か月以前」と「9か月以降」で治療効果が異なることをモデル化できます。

ランドマーク解析(Landmark Analysis)

  • ある特定の時点(ランドマーク、例:9か月)で集団を分けて、その後のイベントを評価します。
  • 時間ごとのハザード比を別々に算出できるため、効果の時間的変化を明確に示すことができます。

✅ 実際の論文でよくある問題点

有名な臨床試験でも、
「単純なコックスモデルのみで解析し、時間依存性を検討していない」
というケースが散見されます。

たとえば、

  • 主要アウトカムの解析において、カプランマイヤー曲線上は後半になって差が開いているのに、
  • 結果は「HR 0.80、P値0.03」などと記載されている

これだと、
「いつ効果が出たのか?」
「本当に一貫した効果なのか?」
という疑問が残ります。


✅ ブログまとめ

▶ コックス比例ハザードモデルは強力なツールですが、時間依存性を無視すると誤解を招く可能性があります。

比例ハザード仮定の検定と、場合によっては時間依存モデルランドマーク解析の導入が重要です。

▶ 臨床的にも「なぜ効果の発現が遅れるのか」を説明できると、より説得力のある解析・報告になります。

β3アドレナリン受容体刺激が心不全治療となる可能性 〜NRF2/β3AR経路が導く新しい心筋保護戦略とBEAT-HF試験の成果〜

 


「心不全治療の未来は、細胞の“抗酸化”と“代謝リプログラミング”にある。」
そんなパラダイムシフトを強く感じさせる、ひとつの画期的な研究成果が2024年に発表されました。
それが、Lauriane Y.M. Michelらによる「NRF2/β3アドレナリン受容体(β3AR)軸」の研究です(Circulation誌掲載)。
そして、このメカニズムを臨床応用する試みが、臨床試験「BEAT-HF」です。

今回は、基礎研究と臨床研究が見事につながった一連の流れを、心不全治療の新たな選択肢として紹介します。


✅ 心不全の病態は「エネルギー危機」と「酸化ストレス」

慢性心不全(Heart Failure: HF)は、単なるポンプ機能の低下ではなく、
細胞内エネルギー代謝の異常
酸化ストレスの亢進
ミトコンドリアの機能不全
といった「代謝リモデリング」が進行する複雑な病態です。

この悪循環が、

  • 心筋細胞のアポトーシス
  • 繊維化
  • 収縮力低下
  • 最終的な心不全の進行
    を加速させます。

従来の治療(β遮断薬やRAS阻害薬)は「神経体液性因子の暴走抑制」という間接的な保護でしたが、細胞レベルでの「エネルギー危機」や「酸化ストレス」に対する根本的アプローチは、これまで十分ではありませんでした。


✅ β3アドレナリン受容体(β3AR)の発見と役割

そんな中、注目されたのが**β3アドレナリン受容体(β3AR)**です。

  • β1/β2ARが収縮力増加・心拍数増加に関わるのに対し、
  • β3ARは陰性変力作用を持つとされてきました。

ですが、心不全病態下ではβ3ARの発現が心筋で増加し、
酸化ストレスの軽減
ミトコンドリア保護
細胞内ナトリウム濃度の低下
といった心筋保護作用を持つことが、基礎研究で次々と明らかになってきました。


✅ 2024年発表の基礎論文

「NRF2/β3-Adrenoreceptor Axis Drives a Sustained Antioxidant and Metabolic Rewiring」

Lauriane Y.M. Michel博士らの研究は、
「β3ARが心筋細胞の抗酸化防御と代謝をどのようにリプログラムするか」
を徹底的に解明したものです。

▶ 実験モデル

  • **ヒトβ3ARを発現するマウスモデル(β3AR-Tg)**を用い、
  • 圧負荷(TAC)による心不全モデルを作成。
  • その心筋細胞での代謝や酸化ストレス応答を評価しました。

▶ 主な発見

  1. ペントースリン酸経路(PPP)の活性化
    β3AR刺激によって、グルコースが解糖系からPPPへとシフトし、
    ▶ NADPHの産生が増加
    ▶ 還元型グルタチオン(GSH)も増加し、酸化ストレスが大幅に軽減

  2. NRF2の核移行と転写活性化
    ▶ β3AR刺激により、一酸化窒素(NO)が生成
    ▶ NOがKeap1をS-ニトロシル化し、NRF2を活性化
    ▶ NRF2が抗酸化酵素やPPP関連酵素の発現を促進

  3. ミトコンドリア機能の維持
    ▶ 酸化ストレス軽減により、ミトコンドリア呼吸が維持され
    ▶ 心筋エネルギー代謝が正常化し、リモデリングを抑制

▶ 総括

このNRF2/β3AR軸は、
抗酸化防御の持続的活性化
代謝のリプログラミングによる心筋エネルギー維持
を実現し、慢性心不全の病態改善に寄与することが証明されたのです。


✅ この基礎知見をヒトへ 〜BEAT-HF試験〜

こうしたメカニズムに基づき、
「β3AR作動薬」を心不全患者に投与したらどうなるか?
その答えを探ったのが、デンマークで実施された**BEAT-HF試験(NCT01876433)**です。

▶ 試験デザイン

  • 対象:NYHA II-III、LVEF <40% の慢性心不全患者70名
  • 投与薬剤:ミラベグロン(最大300mg/日)
    ※ 日本では「ベタニス」としてOABに使用されているβ3AR作動薬
  • 期間:6ヶ月
  • 主要評価項目:LVEFの変化(CTで測定)

▶ 結果の要点

  • 全体ではLVEF改善は有意ではなかった(+0.4%、p=0.82)
  • しかし、LVEF <40%の重症群では
    ▶ ミラベグロン群でLVEFが有意に改善(+5.5%、p<0.03)
  • 副作用は少なく、安全性が確認された

✅ なぜ重症心不全で効果があったのか?

重症心不全では、

  • 細胞内Na⁺濃度の異常な上昇
  • 酸化ストレスの持続
  • ミトコンドリア機能の崩壊
    が顕著であり、
    ▶ β3AR-NRF2軸による抗酸化作用とエネルギー代謝リモデリングが「より必要とされる病態」
    である可能性が示唆されます。

✅ 今後の展望

BEAT-HFは「探索的試験」ではありますが、
▶ 重症HFrEFにおけるβ3AR作動薬の可能性
▶ 従来の治療に加えた「細胞レベルでの抗酸化・代謝制御治療」の意義
を明確にした点は、非常に重要です。

▶ 次のステップ

  • フェーズ3試験による大規模検証
  • HFpEF(拡張型心不全)や難治性症例への応用
  • 他のβ3AR作動薬(AMG986など)の開発・治験

✅ まとめ:心不全治療の「次なるターゲット」はβ3ARとNRF2

心不全治療は、これまで「交感神経抑制」や「リモデリング抑制」が中心でした。
しかし、
▶ β3ARを刺激し、NO・NRF2経路を活性化
▶ ペントースリン酸経路を駆動し、抗酸化・代謝をリプログラム
することで、心筋細胞そのものを守り抜く**「細胞内ターゲット治療」**が現実になろうとしています。


✅ 最後に

正直なところ、臨床研究結果からは、「ミラベグロン」は、単なる膀胱薬から「心筋を守る薬」へという流れにはならないだろうと思います。

ただ、この機軸での新しい治療薬がいずれ出てくる可能性はあろうかと思っています。


▶ 参考論文

  • Michel LYM, et al. An NRF2/β3-Adrenoreceptor Axis Drives a Sustained Antioxidant and Metabolic Rewiring Through the Pentose-Phosphate Pathway to Alleviate Cardiac Stress. Circulation. 2024. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.067876
  • Bundgaard H, et al. β3-Adrenoceptor Agonist Treatment in Chronic Heart Failure (BEAT-HF Trial). Eur J Heart Fail. 2021.

(私の備忘録として)抗酸菌とMACの関係性から診断まで

循環器ではないですが、ほんの少し関わったので勉強代わりにまとめた備忘録


✅ 抗酸菌とは?

抗酸菌は、細胞壁にミコール酸という特殊な脂質を持つ細菌のグループです。このため、酸に強く、通常のグラム染色では染まらず、抗酸菌染色(チール・ネルゼン染色や蛍光染色)によって検出されます。

✅ 抗酸菌の分類と代表的な菌

【抗酸菌(Mycobacterium属)】
├─【結核菌】(Mycobacterium tuberculosis)→ 肺結核など
├─【ハンセン病菌】(Mycobacterium leprae)→ ハンセン病
└─【非結核性抗酸菌(NTM)】
    ├─【MAC(Mycobacterium avium complex)】→ 肺MAC症
    ├─【M. kansasii】→ 肺感染症
    └─【M. abscessus】→ 難治性肺感染症など

✅ 抗酸菌の特徴と関係性

分類 主な菌種 感染経路 代表疾患 感染力
結核菌 M. tuberculosis ヒト→ヒト(飛沫感染) 肺結核 強い
ハンセン病菌 M. leprae ヒト→ヒト(接触感染) ハンセン病 弱い
非結核性抗酸菌(NTM) MAC、M. kansasii、M. abscessus 環境(土・水)から吸入 肺MAC症、皮膚感染 弱い

✅ NTMとは?

NTM(非結核性抗酸菌)は、結核菌でもハンセン病菌でもない抗酸菌の総称です。日本では年々患者数が増加しており、特に**MAC(Mycobacterium avium complex)**による感染症が最も多く報告されています。

➤ NTMの特徴

  • ヒトからヒトへの感染はほとんどない

  • 環境中(浴室・土壌・水道水)に生息

  • ゆっくりと進行する慢性感染症


✅ MACとは?

MAC(Mycobacterium avium complex)は、NTMの一種で、主にM. aviumM. intracellulareの2つの菌から構成されています。

➤ 主な感染症

  • 肺MAC症

  • 播種性MAC症(特にHIV患者や免疫抑制状態で)

  • リンパ節MAC症(特に小児に多い)


✅ MACの診断基準

【1】 臨床的条件

  • 慢性の呼吸器症状(咳嗽、喀痰、血痰、倦怠感など)

  • 胸部CTにて特徴的な画像所見

    • 結節影、粒状影、Tree-in-bud、気管支拡張、空洞形成

【2】 微生物学的条件(以下のいずれかを満たす)

  • 喀痰培養陽性 × 2回以上(異なる日に採取)

  • 気管支洗浄液(BAL)で培養陽性 1回

  • 病理組織で抗酸菌染色陽性かつ培養陽性または類上皮細胞肉芽腫

【3】 他の疾患の除外

  • 結核菌、他のNTM、真菌症、悪性腫瘍などを除外する


✅ MACの補助診断ツール

➤ 抗MAC抗体(IgA)検査

  • 感度:約70〜80%

  • 特異度:約90%以上

  • 意義:診断補助として有用。喀痰が採取できない場合などで活躍

➤ PCR法

  • MAC菌の迅速検出が可能

  • 感度・特異度が高い


✅ MAC症の治療とフォロー

➤ 治療開始の目安

  • 進行性病変の確認(画像、症状の進行)

  • 空洞形成の有無

  • 播種リスクのある免疫抑制状態

➤ 標準治療レジメン(3剤併用)

薬剤名 用量
リファンピシン(RFP) 450〜600 mg /日
クラリスロマイシン(CAM) 500〜800 mg /日
エタンブトール(EB) 15 mg/kg(500〜750 mg)

➤ 治療期間

  • 喀痰培養陰性化後、さらに12ヶ月間継続

➤ 治療中の注意点

  • EBによる視神経障害(定期的な視力検査)

  • RFPによる肝機能障害や薬物相互作用に注意


✅ まとめ

  • 抗酸菌は「結核菌」「ハンセン病菌」「NTM」に大別される

  • MACはNTMの中で最も頻度が高く、日本では肺MAC症が増加している

  • 診断は、症状・画像・菌の証明・他疾患の除外を組み合わせて行う

  • 治療は3剤併用療法を基本とし、長期管理が必要


 

LDL-Cとリポタンパク(a)【Lp(a)】

はじめに

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)は、世界的に主要な死因のひとつです。その発症リスク管理において、最もよく知られている血中脂質マーカーは**低密度リポタンパクコレステロール(LDL-C)**ですが、近年、**リポタンパク(a)【Lp(a)】**が新たな独立したリスク因子として注目されています。

「LDL-Cをいくら下げても、Lp(a)が高ければ心血管リスクは残る」

そんな警鐘が多くの研究から鳴らされている中、2024年に発表された大規模メタ解析が、これまでの知見をさらに裏付ける結果を示しました。

本記事では、LDL-CとLp(a)の両者がもたらすASCVDリスク、その関係性、そして治療戦略について深掘りしていきます。


1. LDL-CとLp(a)の基本構造と生理的役割

LDL-Cとは

LDL-C(Low-Density Lipoprotein Cholesterol)は、「悪玉コレステロール」として知られ、動脈硬化の最大のリスク因子です。
スタチンをはじめとする薬剤によるLDL-Cの低下は、数々の臨床試験で心血管イベント抑制に有効であることが証明されています。

Lp(a)とは

Lp(a)は、LDL様粒子(ApoB-100を含む)の外側に**アポリポタンパク(a)【Apo(a)】**が結合した構造を持つリポタンパクです。
Apo(a)はプラスミノーゲンに類似した構造を有し、以下のような独自の作用で心血管イベントを増加させることが知られています。

  • 血栓溶解を阻害
  • 酸化リン脂質を運搬
  • 動脈硬化や大動脈弁石灰化を促進

2. Lp(a)はApoB-100にしか結合しない

Apo(a)は、ApoB-100にのみ結合する性質を持ちます。
具体的には、LDL粒子にあるApoB-100のリジンリッチドメインとジスルフィド結合を形成し、Lp(a)粒子が完成します。

この結合は強固であり、ApoAやApoC、ApoEなど他のアポリポタンパクとは結合しません。

また、
✅ 血漿中濃度の依存性
✅ 酸化ストレスや炎症環境の影響
が関与する可能性が示唆されていますが、決定的な制御因子はまだ特定されていません。


3. LPA遺伝子多型とLp(a)濃度

LPA遺伝子のKIV-2リピートがカギ

Lp(a)濃度は、約90%以上が遺伝的要因で決まるとされています。
その中心が、LPA遺伝子の**kringle IV type 2(KIV-2)**リピート数の違いです。

  • KIV-2リピート数が少ない ➡ 小型Apo(a)を作り、合成効率が高くLp(a)濃度は高くなる
  • KIV-2リピート数が多い ➡ 大型Apo(a)となり、合成は非効率でLp(a)濃度は低くなる

このLPA遺伝子多型は個人ごとに異なり、生涯ほとんど変化しません。


4. データから読み解く:LDL-CとLp(a)の「ダブルリスク」

ここまでで、LDL-CとLp(a)がそれぞれ独立してASCVDリスクを高め、両者のリスクが加算的に働くことを説明しました。
そのエビデンスとして、4SやJUPITERなどを含む2024年大規模メタ解析(27,658人対象)の結果が以下の図解で示されています。

(4D Study (Die Deutsche Diabetes Dialyse), 4S (Scandinavian Simvastatin Survival Study), CARDS (Collaborative Atorvastatin Diabetes Study), JUPITER (Justification for the Use of Statins in Prevention: An Intervention Trial Evaluating Rosuvastatin), LIPID (Long-Term Intervention With Pravastatin in Ischaemic Disease), and MIRACL (Myocardial Ischemia Reduction With Aggressive Cholesterol Lowering))

📊 Bhatia HS, Wandel S, Willeit P, et al.
Independence of Lipoprotein(a) and Low-Density Lipoprotein Cholesterol–Mediated Cardiovascular Risk: A Participant-Level Meta-Analysis.
Circulation. 2025;151(4).
doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.069556

 

Figure 3の解説

この図は、スタチン治療を受けた患者群におけるLDL-CとLp(a)のリスク評価を示しています。

✅ 上段:Achieved LDL-C Quartiles(達成LDL-C値ごとの比較)

  • Q1(最も低い達成LDL-C):3.09〜76.95 mg/dL
  • Q4(最も高い達成LDL-C):>140.76 mg/dL

各群でさらに、Lp(a)が50mg/dL以下と50mg/dL超に分けたASCVDリスク(HR)が示されています。

🔹 LDL-C Q1群でも、
➡ Lp(a)高値(>50 mg/dL)でHR 1.38(95% CI: 1.06–1.79)
➡ イベント発生率は4.90/100 PY

🔹 LDL-C Q4群では、
➡ Lp(a)高値でHR 1.90(95% CI: 1.46–2.48)
➡ イベント発生率は10.30/100 PY

✅ 下段:Absolute LDL-C Change Quartiles(LDL-C絶対変化量ごとの比較)

  • Q1(最も大きな低下):−192.6〜−52.09 mg/dL
  • Q4(むしろ上昇):5.99〜115.24 mg/dL

🔹 LDL-Cを大きく低下させた群(Q1)でも、
➡ Lp(a)高値ではHR 1.28(95% CI: 1.09–1.50)
➡ イベント率は7.62/100 PY

🔹 LDL-Cの低下幅が小さい群(Q4)では、
➡ Lp(a)高値でHR 1.32(95% CI: 0.87–2.00)
➡ イベント率は6.08/100 PY

✅ 臨床的インプリケーション

  • LDL-Cを十分に下げても、Lp(a)高値のリスクは残存
    ➡ LDL-Cコントロール達成後もLp(a)測定と評価が重要
  • LDL-Cを下げきれない場合は、まずLDL-C管理を優先
    ➡ 今後はLp(a)ターゲット治療が必要になる可能性

5. LDL-CとLp(a)は「独立した」ASCVDリスク因子

メタ解析の結果(27,658人対象)

✅ LDL-CとLp(a)は、それぞれASCVDリスクを独立して増大させる
✅ LDL-Cを低下させても、Lp(a)リスクは完全には消えない
✅ 両者が高いと、リスクは加算的に増大する

具体的には、

  • LDL-Cを77mg/dL以下に下げた群でも、Lp(a)が50mg/dL以上ならASCVDリスクは38%増加(HR 1.38)
  • LDL-Cが140mg/dL超の群では、Lp(a)高値でHRは1.90
  •  

6. LDL-CとLp(a)をどうマネジメントするべきか

LDL-Cの徹底管理が第一歩

✅ LDL-Cは一次ターゲットとして厳格に管理
➡ LDL-C目標値は、高リスク例で<55mg/dL、中リスク例で<70mg/dL

LDL-C管理後の「隠れリスク」としてのLp(a)

✅ LDL-C目標達成後も、Lp(a)高値による残存リスクの評価が必要
➡ Lp(a)測定は成人後「一生に一度」でOK
➡ 高リスク(50mg/dL超)の場合、管理強化を検討


7. 現行治療と次世代治療

現行治療

スタチン
➡ LDL-C低下に有効だが、Lp(a)には効果がなく、増加させる報告もある

PCSK9阻害薬(エボロクマブ、アリロクマブ)
➡ LDL-Cを大幅に低下
➡ Lp(a)も20〜30%低下させるが、十分とはいえない

次世代ターゲット治療

Pelacarsen(ASO療法)
➡ Lp(a)を最大80%低下
➡ 第2/3相試験中

Olpasiran(siRNA療法)
➡ Lp(a)を強力かつ持続的に低下
➡ 第2/3相試験中


8. 臨床現場での実践と今後の展望

✅ LDL-Cだけでなく、Lp(a)測定と管理が求められる
✅ LDL-Cコントロール後の「残存リスク」に対応する必要あり

欧米ガイドラインの動向

✅ 欧州動脈硬化学会(EAS)、カナダ心血管学会(CCS)
➡ 全成人に一度のLp(a)測定を推奨
➡ Lp(a)高値ではLDL-C管理目標をさらに厳格化

Lp(a)と石灰化性大動脈弁狭窄症(CAVS)

✅ Lp(a)高値はCAVSのリスク因子でもある
➡ 弁膜症リスクにも注意が必要


9. 結論

LDL-CとLp(a)は独立したリスクファクターであり、
✔ LDL-Cを十分に下げても、Lp(a)によるリスクは残る
✔ 両者をターゲットにした「ダブルマネジメント」が心血管予防の鍵

スタチン治療が行き届いている現代医療において、
「LDL-Cが下がっているのにイベントが起きる」
そんな「残存リスク」に、Lp(a)が関与している可能性は高いと言えます。

今後、PelacarsenやOlpasiranといった新たなLp(a)ターゲット療法が実用化されることで、ASCVDの一次・二次予防はさらに個別化される時代が訪れるかもしれません。


参照文献

  • Tsimikas S, et al. J Am Coll Cardiol, 2017.
  • Clarke R, et al. N Engl J Med, 2009.
  • Bhatia HS, et al. Circulation. 2025;151(4).

銅欠乏がミトコンドリア銅枯渇を促進し心筋線維化を悪化させる新規エピジェネティック機構の解明

論文のピックアップ

 

SLC31A1 loss depletes mitochondrial copper and promotes cardiac fibrosis 

European Heart Journal, ehaf130, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf130
 
 

研究の背景と目的 (Background and Aims)

  • 金属(特に銅など)はミトコンドリアの代謝に必要な酵素の補因子として重要です。
  • 金属のバランス(金属ホメオスタシス)が崩れると、エピジェネティックなメカニズム(DNAメチル化など)にも影響を及ぼすことが知られています。
  • しかし、「金属、特に銅がどのように心臓の線維化(心筋線維化:Cardiac Fibrosis, CF)」にエピジェネティックに関わるかは、これまであまり分かっていませんでした。

方法 (Methods)

  • マウスの心臓組織の金属(特に銅)の濃度を**ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)**で測定。
  • MeCP2というエピジェネティック制御因子を欠損させたマウスと、正常なマウスを使い、イソプレナリンやアンジオテンシンIIでCFを誘導
  • AAV9ベクターでPOSTN(心筋線維芽細胞特異的プロモーター)を使い、MeCP2、YTHDF1、SLC31A1をノックダウン。
  • 銅キレート剤(テトラチオモリブデン)も使用して、銅の役割をさらに検証。
  • ヒトの心臓組織(心房細動患者)でも確認実験。

主な結果 (Results)

  • CFでは心筋内の銅濃度が低下し、ミトコンドリア内の銅も枯渇している。
  • SLC31A1(銅輸送体)の発現が減少 → ミトコンドリアへの銅供給が低下 → ミトコンドリア機能障害 → グリコーシス(解糖系)が亢進 → 線維芽細胞が増殖してCFが進行。
  • MeCP2がSLC31A1のプロモーター領域をメチル化 → SLC31A1の転写が抑制される。
  • MeCP2をノックダウンするとSLC31A1が回復 → 銅も回復し、CFの進行が抑えられた。
  • MeCP2はm6A修飾されたmRNAとして存在し、それをYTHDF1が認識して翻訳を促進。
  • ヒト心房細動患者でも、銅が低下し、SLC31A1の減少、MeCP2とYTHDF1の増加が確認された → CFが進行している。

結論 (Conclusions)

  • 銅不足がエピジェネティック機構を介して心筋線維化を悪化させることが示された。
  • 銅輸送とミトコンドリア機能の破綻が、線維化と代謝異常を引き起こす新しいメカニズムを提案している。
  • CFを防ぐための新たな予防法や治療法のヒントになる可能性がある。

用語の整理

  • MeCP2:DNAメチル化領域に結合し、遺伝子発現を抑制するエピジェネティック制御因子。
  • YTHDF1:m6A修飾されたmRNAを認識し、翻訳効率を上げるRNA結合タンパク質。
  • SLC31A1(CTR1):細胞内に銅を取り込むトランスポーター。
  • m6A:RNAに付加されるメチル化修飾で、RNAの安定性や翻訳効率を調整。

エパデール(EPA)のROCK経路抑制作用とリンパ浮腫・線維化疾患への応用の可能性

エパデール(EPA)のROCK経路抑制作用とリンパ浮腫・線維化疾患への応用の可能性

―uPARAP抑制とROCK阻害の観点から―

近年、リンパ浮腫(Lymphedema)の病態メカニズムに対する理解が進みつつあり、リンパ管内皮細胞(LEC)の接着構造や線維化への介入が治療戦略として注目されている。2024年に報告されたuPARAP(urokinase plasminogen activator receptor-associated protein)を標的とした研究では、uPARAPの抑制がリンパ浮腫モデルにおいて有益なリンパ管再構築を誘導し、リンパ液吸収能を改善する可能性が示された(Mazzola et al., 2024)[1]。
この研究は、LECの接着構造とリンパ管リモデリングの重要性を示すとともに、ROCK(Rho-associated coiled-coil containing protein kinase)経路の関与にも言及しており、リンパ浮腫治療におけるROCK阻害の有用性が再認識される結果となった。

本稿では、uPARAPとROCKの関連を踏まえつつ、国内で広く使用されているイコサペント酸エチル(EPA、エパデール®)がROCK経路に与える影響、さらにその臨床応用の可能性について考察する。


uPARAPとROCK経路の関連性

uPARAPは、線維化とリンパ管新生に関与するエンドサイトーシス受容体であり、リンパ浮腫モデルではその抑制がラビリンス状のリンパ管ネットワークを誘導し、リンパ液の吸収能が向上することが報告されている[1]。
特に、LECにおけるVE-cadherinのエンドサイトーシスと細胞間接着の再構築は、ROCK経路が制御する細胞骨格再編と密接に関連している。
同研究では、ROCK阻害剤を用いることでLECの細胞重層化とラビリンス状血管構造が再現され、リンパ浮腫の軽減効果が得られたと報告されている[1]。


ROCK阻害剤の現状と臨床使用

ROCK阻害剤は現在、以下の薬剤が臨床使用されている。

  • ファスジル(エリル®)
    脳血管攣縮の治療薬として日本で承認。静注製剤である。
  • リパスジル(グラナテック®)
    緑内障および高眼圧症の治療点眼薬として承認されている。
  • ベルムソジル(Rezurock®)
    米国にて慢性移植片対宿主病(chronic GVHD)に対する経口ROCK2阻害剤として承認された。

これらはいずれも直接的にROCK活性を阻害する薬剤であり、抗線維化、抗炎症、血管拡張作用を介して疾患の進展を抑制する。


EPA(エパデール®)によるROCK経路への間接的抑制作用

EPAは、ω-3系多価不飽和脂肪酸の一種であり、エパデール®として日本で承認されている。中性脂肪低下作用を中心に、抗炎症、抗血栓、血管内皮保護作用が報告されている[2]。
近年の研究では、EPAがROCK経路に対して間接的な抑制作用を有することが報告されており、そのメカニズムには以下が関与している。

1. RhoA/ROCK経路の抑制

In vitroおよびin vivoの研究において、EPAがRhoA活性を抑制し、ROCKの下流シグナル伝達を抑えることが示されている[3]。
これにより、血管平滑筋細胞の収縮抑制、内皮細胞のNO産生促進、血管拡張効果が増強される。

2. 抗線維化作用

EPAは、ROCK経路を介する線維芽細胞の活性化を抑制し、コラーゲンや細胞外マトリックス(ECM)産生を低下させることで、心血管リモデリングや肝線維症の進行を抑制する可能性がある[4]。


リンパ浮腫に対するEPAの応用可能性

リンパ浮腫においては、慢性的な炎症と線維化が進行し、リンパ管の再建・再生が困難となる。
uPARAPやROCKの制御を通じたLECの接着構造再編は、リンパ液吸収能の改善に寄与することが明らかとなっている[1]。
EPAのROCK経路抑制作用は、LECの機能改善やリンパ管の線維化抑制を介して、リンパ浮腫の病態改善に資する可能性があると考えられる。

しかしながら、現時点でEPAによるリンパ浮腫への直接的な治療効果を検証した臨床試験は存在しない。
よって、仮説段階ではあるものの、安全性の高いEPAがROCK経路に作用しうるという知見は、今後の研究開発において注目されるべきである。


直接的ROCK阻害剤とEPAの比較

特徴項目 EPA(エパデール®) ファスジル/リパスジル/ベルムソジル
作用機序 間接的なROCK経路抑制 ROCK活性の直接阻害
主な適応症 高脂血症、虚血性心疾患 脳血管攣縮、緑内障、GVHD
抗線維化作用 動物モデルにおいて確認 ヒトでの臨床効果も確認
投与経路 経口 静注・点眼・経口
安全性 良好 使用法によっては副作用有

結論

uPARAPとROCK経路はリンパ浮腫の病態に深く関与し、これらを標的とした治療戦略は今後の重要な研究テーマとなりうる。
2024年のMazzolaらによるuPARAP抑制研究は、LECの接着構造改変によるリンパ管再建の可能性を提示し、ROCK阻害による効果が裏付けられた[1]。

EPA(エパデール®)は、間接的にROCK経路を抑制する可能性が報告されており、既存の高脂血症治療薬であるにも関わらず、抗線維化、抗炎症作用を介して、リンパ浮腫や線維化疾患への新たな治療選択肢となりうる可能性がある。
今後、リンパ浮腫を含む線維化疾患に対するEPAの臨床研究が進むことが期待される。


参考文献

  1. Mazzola, L., Tatin, F., Hardelin, J. P., et al. (2024). uPARAP Regulates Lymphatic Endothelial Junctions To Attenuate Secondary Lymphedema. Circulation Research, 134(4), 487-502. https://doi.org/10.1161/CIRCRESAHA.123.000000
  2. Yokoyama, M., Origasa, H., et al. (2007). Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. The Lancet, 369(9567), 1090-1098.
  3. Kawakita, E., Hashimoto, M., Shido, O. (2006). EPA prevents hypertension and vascular remodeling through nitric oxide and suppression of endothelin-1. Nutrition, 22(1), 9-15.
  4. Terano, T. (2010). Eicosapentaenoic acid and prevention of cardiovascular diseases: epidemiology and intervention studies. Atherosclerosis Supplements, 11(1), 11-17.

γ計算

①γ計算に必要な値:シリンジ内の薬剤の総量(mg)、シリンジの溶液の量(ml)、患者の体重(kg)

 求める値:シリンジポンプを 1ml/Hに設定した時に、何γとなるか。(γ=μg/kg/min)

計算:

何γ= シリンジ内の薬剤の総量(mg)×1000÷シリンジの溶液の量(ml)÷体重(kg)÷60

 

②最終的な設定値:

 目標とするγ数(=目標γ)、設定すべきシリンジポンプの量(設定ml/H)

 設定ml/H = 目標γ ÷ 上で求めた何γ  (本当の単位はγ*H/ml)

 

例1:ノルアドレナリン

 ノルアドレナリン(1mg)5A + 生理食塩水 45ml,

    ノルアドレナリン総量 5mg, 全体 50ml, 患者体重 40kg

 5mg×1000÷50ml÷40kg÷60 = 0.042γ

 1ml/Hで投与すると0.042γ, 0.1γから開始すると

 0.1÷0.042 = 2.5ml/H

 で投与すればよい。

(カルテには、1ml/Hで0.042γになることと、2.5ml/Hで0.1γ投与することを記載すると他の人にも理解しやすかったり、その後の増減の時にわかりやすくなります)

 

例2: 0.3% ドブポン(50ml,→50ml×0.3% = 0.15g = 150mg)

 0.3%ドブポン50ml

 薬剤総量 150mg, 全体 50ml, 患者体重  70kg

 150mg×1000÷50ml÷70kg÷60 = 0.714γ

 3γから開始したいなら

  3γ÷0.714γ = 4.2ml/H

で投与開始して、1γ刻みでぞうりょするなら、1.4ml/Hずつ増量すればよい。

 

急性心不全の治療(7):ドブタミンとミルリノンの具体的な使用方法とにニフェカラントについても少し - 心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

 

急性心不全の治療(6):強心薬の具体的な使用 - 心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

 

説明:

私、今、療養を中心にしたいわゆる老人病院にいるのですが、いろいろあって、ノルアドレナリンを持注で投与することになり、久しぶりにγ計算をしましたので、γ計算の仕方を自分の備忘録も兼ねて記載しておきたいと思います。

γの単位は、μg/kg/minです。で、実際のシリンジポンプの設定は、ml/Hです。この違いのため、計算が必要です。

私の場合には、シリンジポンプの濃度から、1ml/Hに設定した時に、何γになるかを計算して、目標とするγ数になるように、シリンジポンプのml/Hを設定するという感じで調整しています。携帯電話の計算機で計算しています。

計算に必要な値:シリンジ内の薬剤の総量(mg)、シリンジの液体の量(ml)、患者の体重(kg)

最終的に1ml/Hあたりの薬剤の投与量(=mg/ml/H)をγ(=μg/kg/min)に変更していくことになります。

ノルアドレナリンを使用しましたので、それで計算していきます。

ノルアドレナリン1A (1mg/ml)を5A使用して、生理食塩水 45mlで薄め、体重40kgのおばあちゃんに使用しました。

つまり、ノルアドレナリン 5mg, 総液量 50ml, 患者体重 40kg。

ひとまず、1時間当たりの投与量1mlの時の投与量:5mg/50ml/H =0. 1mg/ml/H

γが体重あたり、1分当たりの㎍の投与量になるので、

1mg = 1000㎍, 1時間 = 60分, 体重 40kgで割り込んでいきます。

0.1mg/ml/H = 0.1×1000μg/ml/60min/40kg = 1000/60/40 μg/min/kg/ml ≒ 0.042γ/ml

ということで、1ml/Hの設定師にしたときに、0.042γになります。

シリンジポンプは経験上、当初開始時には、 2ml/H程度以上にはしたいので、2.5ml/Hにすると約0.1γ程度になり、2.5ml/Hで開始、血圧をみながら、1ml/Hずつ増量することとしました。

 

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私個人の降圧薬の選択

  • 基本的には、薬剤の選択よりも目標血圧に達することが重要。
  • 腎機能とカリウム値を確認した上で、薬剤を選択している。
  • 合剤が豊富であるため、アムロジピンとテルミサルタンを中心に処方することが多い。

ALLHAT試験やBPLTTCなど、薬剤間のイベント差異や降圧効果を調査した研究は多くありますが、基本的には薬剤の違いよりも、血圧をしっかりと下げること自体が重要と考えています。

以前は、プロモーションの影響もあって、ミカルディス(テルミサルタン)に対して否定的な印象を持っていました。具体的には、販促でPPARγに焦点を当てていましたが、臨床的にはミカルディスによるPPARγの副次的な効果は示されていませんでした。MRからも、ミカルディスは部分的なPPARγ作用であるが、どの部分に効いて、どこに効かないかがはっきりしないと言われたこともあります。また、ピオグリタゾンのようなPPARγ作動薬に見られる浮腫などの副作用がミカルディスでは現れないことから、その効果は期待できないと思っていました。

ただ、ミカルディス自体の降圧効果は24時間持続し、当時発売されていた他のARB(アジルサルタン以外)よりも優れていたため、薬剤としての効果自体は悪くないと感じていました。

最近では、合剤が充実しており、3剤合剤でも1錠で服用できる点は、臨床的に使用しやすいと感じています。

現在は以下のような処方で調整しています:

  •      アムロジピン5mg
    → ミカムロAP(アムロジピン5mg/テルミサルタン40mg)
    → ミカムロBP(アムロジピン5mg/テルミサルタン80mg)
    → ミカトリオ(アムロジピン5mg/テルミサルタン80mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg)

これにスピロノラクトン/エプレレノンの追加することもあります。

この処方例に関しては、心不全や腎不全の場合は少しいろいろとややこしくなるので、それらがない患者ということにはなります。

 

副作用以外で注意すべき点は、主に腎機能の変化とカリウム値です。

2次性の検査は、全例に実施しているわけではありません。腹部聴診と甲状腺機能検査は初診時に全例で行いますが、若年性や2剤以上使用しても160/90を超える場合、3剤でも目標値に達しない場合など、一定の基準に基づいて本格的な2次性の検査を行います。腎アブレーションについても、3剤で目標に達しない場合には、紹介を検討します。