レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並ぶ三大認知症の一つとして知られています。かつて私は、「幻視がある」「抗精神病薬の使用に注意が必要」という程度の認識にとどまっていました。しかし、自律神経障害を前景に持つ亜型の存在や、その血行動態への影響を知るにつれ、DLBはむしろ循環器内科医が深く関与すべき疾患であると痛感するようになりました。
◉ αシヌクレインとは何か?
DLBやパーキンソン病、多系統萎縮症(MSA)に共通して関与する病因タンパク質、それが「αシヌクレイン」です。これはもともと神経終末に存在する正常なタンパク質で、以下のような生理的機能を持ちます:
| 生理機能 | 内容 |
|---|---|
| ドーパミン放出の調整 | シナプス小胞の融合・遊離を制御 |
| 小胞の再利用効率化 | 神経伝達の維持と回転効率を高める |
| 脂質膜との相互作用 | 神経終末の構造可塑性に関与 |
ところが、何らかの要因で**異常に折りたたまれ(ミスフォールディング)**たαシヌクレインは、他の正常なαシヌクレインに異常構造を伝播し、凝集体を形成します。この構造感染的性質を「プリオン様伝播(prion-like propagation)」と呼びます。
◉ レビー小体とその病理学的進展
αシヌクレインの異常凝集体は神経細胞内でレビー小体やレビー小糸として可視化されます。レビー小体は初期には脳幹に、やがて辺縁系、大脳皮質、自律神経系にまで進展します。この進展に伴い、症状も変化していきます。
| 病変部位 | 主な症状 |
|---|---|
| 嗅球・腸管神経叢 | 嗅覚低下、消化管機能障害 |
| 脳幹(青斑核・黒質) | パーキンソン症状、REM睡眠行動障害 |
| 大脳皮質 | 認知症症状、幻視、注意力変動 |
| 自律神経系 | 血圧変動、起立性低血圧、膀胱腸管障害 |
この進行パターンを支持する動物実験も報告されており、異常αシヌクレインを脳内や末梢(腸管や嗅球)に注入すると、神経経路を介して病理が広がることが確認されています。これにより、DLBやパーキンソン病が「感染するように広がる」性質を持つことが理解されつつあります。
◉ 自律神経障害が主となるレビー小体病:PAF
循環器内科医として特に注意すべきは、「認知症や振戦はないのに血圧変動が著しい」症例です。これはDLBの亜型、**純粋自律神経型レビー小体病(Pure Autonomic Failure:PAF)**の可能性があります。
| 症状 | 内容 |
|---|---|
| 起立性低血圧 | 立位で急激に血圧が下がる(20mmHg以上) |
| 夜間高血圧 | 睡眠中にも交感神経優位が続く |
| 発汗異常 | 全身または局所の無汗・過剰発汗 |
| 便秘・排尿障害 | 自律神経による腸管・膀胱制御の障害 |
| 血圧日内変動の崩壊 | 起床時に失神、夜間に頭痛なども |
DLBやパーキンソン病へと**数年以内に進行(phenoconversion)**することもあるため、見逃さず早期介入する意義は大きいです。
◉ 診断に役立つ検査
| 検査名 | 内容 |
|---|---|
| Tilt試験 | 起立性低血圧を確認 |
| MIBG心筋シンチグラフィ | 心臓交感神経の脱神経を可視化(取り込み低下) |
| 頭部MRI | 脳萎縮のパターン(後頭葉など) |
| DaTスキャン | ドパミン取り込みの低下(パーキンソニズム評価) |
| 皮膚生検(研究段階) | 末梢神経のαシヌクレイン沈着を確認 |
◉ 治療:対症療法が中心
DLBもPAFも根治療法は現時点では存在せず、症状のコントロールによるQOL向上が治療の主軸です。循環器内科医が関与するべき重要な症状は以下のとおりです。
● 起立性低血圧
| 治療 | 内容 |
|---|---|
| 非薬物療法 | 水・塩分摂取、弾性ストッキング、頭部挙上 |
| ミドドリン | 末梢血管収縮による血圧上昇(効果速やか) |
| ドロキシドパ | ノルアドレナリン前駆体として作用 |
| フルドロコルチゾン | ナトリウム貯留による体液量増加(低K注意) |
● 夜間高血圧
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就寝前の短時間作用型降圧薬(Ca拮抗薬など)
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ベッド頭側を15〜30度上げることで夜間交感神経緊張を緩和
● 消化・泌尿器症状
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便秘:酸化マグネシウム、ルビプロストンなど
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排尿障害:ミラベグロンや自己導尿の検討
◉ 認識の転換:循環器内科医にとってのDLB
DLBやPAFは、単なる「神経の病気」ではなく、神経と循環動態が深く結びついた病態です。慢性的に不整脈、血圧変動、夜間高血圧を訴える高齢者の中に、神経変性疾患が隠れている可能性があります。
私自身、「レビー小体型認知症=精神症状に注意」という認識で臨んでいたことで、病態の本質を見逃していた経験があります。しかし、レビー小体が自律神経系に沈着することで、血圧や心拍、消化・排尿といった循環器が守備範囲とする臓器系に多大な影響を与える以上、この疾患は循環器の病気でもあると考えるべきです。
DLBをより深く理解することは、患者の全人的ケアだけでなく、診断精度の向上や多職種連携の強化にもつながります。今後もαシヌクレイン伝播阻害や免疫療法などの研究が進めば、循環器領域での役割もさらに大きくなるでしょう。
「見えない神経の病気が、見えている循環器症状の原因かもしれない」——そういう視点を持って日々の診療に臨むことが、今の時代の内科医に求められているのだと感じています。
今回この記事を書くきっかけとなった書籍です。
レビー小体型認知症と診断された患者である樋口さんが、専門医との対談形式という形で話が進められています。
著者の樋口さんが文才豊かな方であることもあり、非常に読みやすく、一般の方でも読めると思います。
特に私のような非専門医必読の書といってもよいと思います。
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